カルタン行列

ルート系の同型の定義が前回ありました。

実は、2つのルート系が同型であるためには、それぞれのルート系の底同士についてだけ一定の条件を満たせば良いです。ルート系の底から定義されるカルタン行列が、ルート系の同型を与えます。


\Deltaユークリッド空間 V のルート系、\Pi\Delta の底の1つとします。

\Pi の元について、適当に \Pi = (\alpha_1, \cdots, \alpha_n) と番号付けします。このとき、行列 (c_{ij})c_{ij} := c(\alpha_i, \alpha_j))をカルタン行列(Cartan matrix)といいます。なお、c(\alpha, \beta)ルート系の定義のときに導入したものです。

カルタン行列は、底の番号付けのしかたに依存します。2つのカルタン行列が添字の置換で一致する場合、それらは同型であると定義しておきます。カルタン行列は、同型を除いて底の取り方には依存しません。それは、底同士が内積を変えない変換で移りあうからです。

さて実は、2つのルート系が同型であることと、それらのカルタン行列が同型であることは同値です。

つまり、c(\alpha, \beta) が底について一致すれば、ルート系全体で一致する、ということです。これは、ワイル群が実は \{ \sigma_\alpha | \alpha \in \Pi \} で生成される(ルート系 \Delta でなく、その底 \Pi でよい)、ということ(これは前回書いていませんが)から導くことができます。

また、カルタン行列だけ与えられたとき、その情報からルート系を簡単な方法で完全に構成できます。

余談になりますが、このことは、カルタン行列を先に公理的に定義して、そこからルート系を定義する、という議論の可能性を示唆しています。実際、generalized Cartan matrix の定義から始める Kac-Moody Lie algebra の議論がそうです。