sl(2) の表現(後編)

sl(2) の表現(前編)では、sl(2) 加群のある部分加群を構成しました。今回はその続きです。


V を有限次元 \mathcal{sl}(2) 加群とすると、前回構成したような部分加群 V' が存在しました。

今、V を既約加群(0 と自分自身以外に部分加群を持たない)とすると、V = V' が成り立ちます。したがって、有限次元 \mathcal{sl}(2) 加群で既約なものは、V' の形に限ることが分かります。

この日記では触れていませんでしたが、半単純リー代数の有限次元加群は完全可約である(有限次元表現は完全可約である)、という事実があります(その証明はここでは扱いません)。完全可約とは、既約加群の直和で書けることです。

したがって、任意の有限次元 \mathcal{sl}(2) 加群V' の形の加群の直和であることが分かります。既約成分の数は、\dim(V_0) + \dim(V_1) です(V' の形の加群は 0 か 1 のどちらか一方だけを必ずウェイトに持つため)。特に、既約加群かどうかは、\dim(V_0) + \dim(V_1) = 1 かどうかで判定できます。


さて、V' はウェイト \lambda に依存して決まります(この \lambdaV' の最高ウェイトと呼びます)。ここで、可能な最高ウェイトは何があり得るかをはっきりさせておきます。

前回見たように、ある整数 m に対して \lambda = m が成り立ちますから、最高ウェイトは整数です。さらに、0 以上の任意の整数 m について、最高ウェイトが m となる既約加群が存在します。つまり、次のことがいえます。

m0 以上の整数とします。V(m)m+1 次元ベクトル空間とし、基底の1つを v_0, \cdots, v_m とします。作用を次で定義すると、V(m)\mathcal{sl}(2) 既約加群です。

  • (a) y.v_i = (i + 1) v_{i + 1}
  • (b) h.v_i = (m - 2i) v_i
  • (c) x.v_i = (m - (i - 1)) v_{i - 1}

実際に上の定義で加群になることは容易に分かります。既約であることは、\dim(V_0) + \dim(V_1) = 1 から分かります。

そして、既約なものは V' の形に限るのでしたが、これは上の V(m) と同型です。したがって、既約加群V(m) で尽きていることが分かります。

なお、V(m)m=0 のとき自明な表現、m=1 のとき恒等表現、m=2 のとき随伴表現となります。